元禄3年(1690年)、身延山参詣の途次、雨宮孫右衛門は富士川の支流早川河原にて、黒一色の石を拾い作硯を試みました。 以来 300年余り、甲州鰍沢の地にて雨宮弥兵衛家によって和様の感性を生かした硯がつくり続けられてきました。 墨を擦る硯面に心を鎮め、自然の悠久のリズムに心開いてゆく ための大切な道具として、 「硯」は文房四宝のなかでも特に重要な位置を占めています。 「心」は「かたち」によりそい、弥兵衛家では時代に応じた様々な意匠の硯がつくられています。 情報化時代の浸透により私達の生活も日々大きな変化を遂げています。 しかし、本当に心の深奥に響く価値に、私達は接してい るでしょうか。 硯に向かう豊かな時間は現代でこそ、より重要になってきているように思われます。